*かごには何も入っていません。

3/9 記憶の匂い

ある日
鳥が森の中の一本の
木から一房の赤い実を
啄んで

その実のひとつを
たった一粒
くちばしから
落とした

その実は
この地の記憶にも
残らないまま
忘れられるという
こともなく
地中に潜った

生命がぐるりと
何回転か巡った
ある日
小さな芽が
芽生えた

その芽はこの地を
くすぐるように
根を伸ばし
風と雨と光と
小さな会話を
楽しみに
空へと幹を
広げて

ある日
あの鳥の
百代末裔が
赤い実をつけた
大樹に身体を休めた

鳥は実を啄んだ
その瞬きに
奥の奥の方に
眠る繋がった
記憶の匂いを
嗅いだ気がした

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