steel artist — Morison Kobayashi
ARTIST LIBRARY #003
minä perhonenの代官山店、金沢店、callで使用している植物モチーフが施された什器は、モリソン小林さんによるものです。植物が風に揺れるその一瞬を写しとったようなモリソンさんの金属の作品たち。繊細さや儚さと、有機的な美しさを放っており、自然の中にいる時のような安堵感を与えてくれます。
モリソン小林さんのお話を伺いに、川崎のスペシャルソースさんの工房をお邪魔しました。工房の2階で催されていた「絶滅危惧種」の展示風景とともにお楽しみください。
【モチーフとの出会い】
「作品作りは、とにかく実物を自分の目で観察して、それをそのまま作っています。自分が山に行って、植物を見つけて「あっ、居た!居た!こんなところに咲いていた!」と、感動した時のように、展示を見に来てくださった方にも同じように感じてほしいと思います。」



「山登り中は、スケッチの時間はとれないので、写真に葉っぱの裏や根元など、図鑑などで調べても出てこないところを撮ります。あとは周りの植物などの環境がどんな感じかを記録したり記憶したりします。植物だけじゃなくて土も、それぞれの環境で、その周りの自然があって生きている感じじゃないですか。そういう、環境自体を観察するようにしていますね。」

「植物を見に行くのは国立公園が多いです。なので、摘むことはできないので、図鑑や、色々な昔の資料を調べて作るようにしています。根っこなどは半分想像が入っています。調べれば、種類によっての種のつき方などは分かるので、資料から得たものも元にしてる感じですよね。」

モリソンさんが植物に出会った時の感動が、鉄に込められているように感じます。
「リアルに作ろうとは思っていなくて、印象を表現しています。その植物の葉っぱのつき方とか花の枚数等はちゃんと調べて作るようにしているのですが、制作の過程で錆びさせた時などに、頑張って表現した細かいディテールが金属で埋まってしまう場合もあるんですよ。だから、そこまでリアルにはならないっていう前提がありますね。」
【素材と制作】
一つの作品に、色々な素材が使われています。一つの作品が出来上がるまでの長い時間、その作品に真摯に向き合っているモリソンさんの姿が想像されます。
「以前輸送時の振動によって破損することが相次いだので、それを防ぐために制作過程や素材を見直しました。着彩は鉄の錆をうまく使いながら、日本画の岩絵具を使用します。顔料は粒の大きさが13段階ぐらいあるのですが、それを使い分けながら仕上げていきます。」

「例えば、最初に葉っぱだけを沢山作ったりするのですが、とにかくずっと削っているというくらいに削る工程があります。それから、茎パーツに葉っぱを付けて行って、全部を錆びさせてから、色をつけて行きます。絶滅種というテーマは、10年ぐらいかけてあちこちを巡ってモチーフを探してみようと思っています。」

沖縄の絶滅危惧種のすみれの作品には地図も記されていました。額装で用いられているガラスが波打っている様子が美しく、ガラス越しに見る作品は標本のような佇まいです。

「スケッチをコピーした紙の上にモチーフパーツを置いて、溶接の作業をします。スケッチが設計図の役目もしていますね。紙はその作業中に火の粉が移って燃えてしまいます。根っこなどの部分は細いので、彫金用の溶接になります。老眼なので厳しいです。彫金やジュエリーの作り方に似ていますね。」
【未来と環境】
「環境問題は心配しています。絶滅危惧種や高山植物の保護をボランティアでやったり、保護協会に入ったりもしているのですが、制作で用いている鉄という素材は、炭素や化石燃料でできるじゃないですか。だから、矛盾していると思いながら、、。でも鉄も、地球に元々あったリサイクルできる素材でもあります。将来どうなるのかな、植物も鉄も絶滅しちゃうのかな、みたいに考える日もあります。そんな風に環境については不安を持ちながら、自然との共生と物質の循環というテーマでやってきました。植物は環境が悪化すればどんどん絶滅してしまいます。どうすれば良いのかまではわからないのですが、まずは、向き合っています。」
こうして、鉄という素材で作品が残ることで、その作品を通して地球の過去が思い出される日々がくるのかもしれないと感じました。
「そんな中でも、仕事として自分たちの環境、ものづくりができる環境を維持しなくてはいけません。2020年に、岡本太郎現代芸術賞で岡本敏子賞を受賞できたおかげで、展示の機会を得て、アートの世界の色んな人たちと知り合うことができました。ギャラリーの人達と話す機会もありましたが、自分の想像とは違う世界でした。自分の思うアートって今の日本のコンテンポラリーアートのマーケットには無いなぁ、とも実感しました。それでも、自分にできることを続けていこうと思っています。」

【未来から見た原風景】
「日本の原風景がすごく好きです。今の原風景というものもあると思います。山や海に行って、そこで植物を見た時、今見ているものが懐かしいっていう感覚があるじゃないですか。多分何十年後には今の風景が原風景になっているみたいな。そういうのをただただ見て記録して、物に落とし込んで、やっていくしかないのかな、と思っています。いわゆるアートの世界とは、全然違っている気がします。記録していく行為ともとれます。この活動や作品をどう見てもらい、どう評価してもらうかというのは、結構難しいことかもしれません。」
ひたむきに、淡々と、ご自身の目で見つけた植物の生命力や美しさと、その植物を取り巻く環境を作品にされているモリソン小林さん。工芸的な魅力も大きい作品ですが、作家の眼差しや強い想いが込められているからこそ、一つ一つの作品に命が芽吹いているのだと感じました。

モリソン小林
アーティスト。金工や彫像を中心とした作家活動をしている。2013年にspecial sourceを立ち上げ、川崎の工房は、企画展時にはギャラリーとしてもオープンしている。minä perhonenとは、2016年よりショップの什器やディレクションで関わる宿の内装で協業している。

photograph: Hua Wang